登山日誌’

富士子は今日テルミンとマトリョミンのライブに行った。
会場は原宿のカフェである。
やや遅れて会場に辿り着いた富士子が空いている席を求めた結果
最前列中央に富士山と共に陣取ることとなった。

最初はテルミン演奏である。
富士子はテルミンを間近で見るのも演奏を聴くのも初めてである。
演奏が始まるとやわらかく表情豊かな音が富士子と富士山を包み込んだ。

曲目はバリエーションに富んでおり
富士山の大好きなボサノヴァ（イパネマの娘）や更にはシャンソン（愛の賛歌）まであった。

富士子は特に「Over The Rainbow」が好きだと思った。
伸びやかに歌い上げる冒頭部はもちろん
曲の中盤でピアノ伴奏音源とテルミン演奏が交差し合いとても素晴らしかったのである。
またサン・サーンス「白鳥」は
富士子の通う教室の生徒さんが以前マトリョミンで素晴らしい演奏をしていたのを聞いており
また伴奏音源も同じものだったため
偶然にもテルミンとマトリョミンのソロ演奏を聞き比べることが出来たことは
たいへん貴重な経験であった。


次にマトリョミン・アンサンブルの演奏である。
富士子にとってアンサンブルを聞くのは二度目だが
それぞれ顔や髪型などが違うマトリョミン達が一斉に歌うのを見るのは
視覚的にもたいへん楽しいものである。

最初の曲は富士山の大好きな「おお牧場はみどり」であった。
隣に座った女の子が小さな声で一緒に口ずさんだのがとても可愛らしかった。
最後の「ホイ！」のところで富士山も一緒に雲を吐き出し
ドーナツ型の雲がカフェの中を漂った。

富士子が身を乗り出したのは「ムーン・リバー」である。
先程のテルミンでもこの曲を演奏しており偶然曲目が一緒になったらしいのだが
アレンジ自体が全く異なっており
ソロにはソロのアンサンブルにはアンサンブルの良さがくっきりと際立ち
それぞれたいへん素晴らしかった。
途中富士子の先生がソロパートを演奏した。
もっと大きな音で聞きたいと思い
今度はマトリョミンのソロ演奏を聞きに行こうと富士子は思った。

富士子と富士山は最後のオリジナル曲も大好きである。
とても楽しいこの曲にはきっと歌詞があり
マトリョミン達はそれぞれのパートを歌詞で歌っているに違いないが
富士子の耳はぴっちりと黄色いスカーフで覆われており
また富士山も冠雪しているため
メロディはしっかり聞こえるが歌詞までを聞き取ることが出来ないのが残念であった。



　「お隣の席の方とご一緒に記念撮影をしました」（富士子）